「採っては辞める」の悪循環を断ち切る“フィールドHRサイクル”とは
「辞めればまた採用すればよい」「新店舗開店時にはオープン前に一気に採用すればよい」「応募者を集めるにはとりあえず広告を打てばよい」これらは従来のアルバイト・パート採用の常識でした。
しかし、2030年には644万人(*1)という深刻な人手不足が予測されている日本において、
これまでの採用の常識が通用しない時代は、すぐそこまで来ています。
*1)出展元:パーソル総合研究所「労働市場の未来推計 2030」
このことにすでにお気づきの方も少なくないかと思いますが、皆さん「どうすればいいかわからない」というのが本音ではないでしょうか。
それもそのはず、アルバイト・パート領域におけるHR(Human Resource=人的資源管理)についてはほとんど研究が進んでおらず、成功事例も非常に少ないのです。
今回は、「採っては辞める」の悪循環を断ち切る“フィールドHRサイクル”を提唱する
株式会社パーソル総合研究所 フィールドHRラボの責任者である日比谷勉さんに
その詳細、ラボの設立背景を伺います。
関連リンク > 「アルバイト・パートの成長創造プロジェクト
(パーソルグループ×立教大学経営学部 中原淳教授 共同研究)」
関連記事 > 採用はどっちの責任?はっきりさせたい!採用活動における本部・現場の役割分担
日本初。店舗現場を支援する唯一無二の専門部隊 フィールドHRラボ 設立の背景
--- 日比谷さんは、日本マクドナルドで2008年に自社運営のアルバイト求人サイト「マック de バイト」と、一括応募を可能としたコールセンターを設立したと伺いました。
2008年といえば、iPhoneが日本上陸した年ですよね?現在ある各種有料求人メディアも、2002年~2007年に立ち上がり始めたくらいの時代ですから、同じタイミングで、すでに“自社の”採用HPとコールセンターの設立をしているなんて、驚きの先進性です・・・。
いやいや、恐縮です。ありがとうございます。
フィーチャーフォンが出てきてから、採用の潮目が変わっていくのを感じており、
経営陣とも「インターネットをなにかに活用できないか」
「採用を現場任せにするのは酷ではないか」という話をしていました。
更に、マクドナルドでは*2)クルーへ働きやすい環境を提供することに重きを置いており、
「適正人数で運営する」ということも“良い職場環境”の1つの為、
その環境を作り出すための投資ならば、ということでGOを出してもらいました。
*2)マクドナルドでは、店舗従業員のことを「クルー」と呼ぶ
--- そういう背景があったんですね。その後もアルバイト・パート専用の採用アセスメントを開発・導入するなどで、総勢約100万人の採用を推進されたとのことですが、31年間も勤め上げたマクドナルドを退職し、なぜパーソル総合研究所へ転職されたのでしょうか。
冒頭から核心を突きますね…。一言でいうと「もっと広めたい」と思ったのがきっかけです。
マクドナルドでは日本初の取り組みを複数行わせて頂きました。
CMにも使用されたような“クルー満足度84%”という喜ばしい結果も出すことができ、
不満があったわけでは一切ないです。
当時、クルー数は全国で約15万人。
一方、日本で飲食・小売・運輸などのサービス業に就業している方の数は約1900万人(*3)。
もし自分のノウハウを日本全国に広めることができれば、
1900万人の方の「はたらいて、笑おう(*4)」が実現できるのではないかと考えたんです。
*3)出展元:独立行政法人 労働制作研究・研修機構 「産業別就業者数」
*4)「はたらいて、笑おう」とは、パーソルのグループビジョン。
--- これまでやってきたことは間違っていなかった。それで幸せに働ける人を増やすことができたという自信があったからこそ、それを広め、より多くの方にはたらいて、笑ってもらえたら、と考えたのですね。
その通りです。フィールド=現場。HR=人事。
ラボは、現場のはたらくを科学するという想いで名前を決めました。
「フィールドHR」という名称は、実は商標登録もしているんですよ。
日本初。店舗現場を支援する唯一無二の専門部隊 フィールドHRラボ 設立の背景
--- ラボを設立されてから、一貫して「フィールドHRサイクル」を提唱されていますが、簡単にご説明頂くことは可能でしょうか。
もちろんです。我々の提唱するフィールドHRサイクルは、下記画像の通り、
人材マネジメントにおける4つの基本ステップ 「採用」「育成」「定着」「登用」 と、
それに成功に導く12の施策から成り立っています。
このサイクルをグルグル回すことができれば、
店舗現場あるあるのネガティブスパイラルが、ポジティブスパイラルに変化します。
--- このネガティブスパイラル、心当たりがありすぎますね。an営業をしていた時にお客様から聞いた話が、そのまま図になったような感覚を受けます。
そうだったんですね。私もフィールドHRラボのコンサルティングをご提案しに行く際、
お客様にこのサイクル図をお見せすると、
皆さん口を揃えて「わかる、まさにこれ」と仰います。
やはり、これはかなり普遍的な問題なんでしょうね・・・。
人材マネジメントにおける、4つの基本ステップ 「採用」「育成」「定着」「登用」
--- では、4つの基本ステップと、それに含まれる施策について、簡単にご紹介願えますでしょうか。
はい、わかりました。まず 「採用」 から。
【採用】 を成功させるための施策は3つ。
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1.と2.については、以前インタビューでお話しましたので、ここでは割愛させていただきます。
一言で説明するなら、「ここで働きたい」と思ってもらえる職場にする、でしょうか。
関連記事 > 店舗現場から創る採用ブランド ~ローカル採用における5つのステップ~
3.のアセスメントですが、この言葉を聞くと、多くの方は算数の問題を解いたり、
性格診断のようなものを受けたり、10分以上かけて回答した大量のデータから
「この人は〇〇なタイプ」という結果を出すようなものをイメージされてると思います。
オフィスワーカー向けならそれで問題ないと思うのですが、店舗現場ではそうもいきません。
ここでは、「店舗現場の面接時に」「5分でササっと解ける」「コンピテンシー診断」を意味しています。
面接は対面で行うことを想定しているので、この採用アセスメントは、紙です。
--- コンピテンシーとはなんでしょうか?
コンピテンシーとは、成果を生み出す行動特性のことです。
学生を例とすると、頭がいいからテストの点数が高いのではなく、
「復習の習慣がある」「テスト勉強を先延ばしにしない」というような
性格や価値観(=コンピテンシー)があるから、テストの点数が高くなる、と考えるのです。
(出展元:https://fwd-march.com/competency/meaning-case/)
--- わかりました!ありがとうございます。
それでは次に、 「育成」 。
【育成】 を成功させるための3つの施策は、以下の通り。
4.“オンボーディング戦略”による早期戦略化と、早期離職防止 |
4.“オンボーディング戦略”による早期戦略化と、早期離職防止
スタッフの定着には、入社初日の迎え入れ方が非常に重要なんですが、それを表しています。
入社・入店を、陸から船(=店舗現場)に乗るようなイメージで、
“オンボーディング(on-boarding)”という言葉を使用しています。
5.アルバイトキャリア育成プログラム
長く働いてもらうこと前提に考えると、
アルバイト・パートであっても正社員と同じように、キャリアステップが明確で、
ステップアップするための仕組みや研修、実践機会が整備されていることが重要です。
6.チャンスメイク(=リーダー育成と権限移譲)
アルバイト・パートは決して単純労働者ではありません。
もしそのような考え方で、毎回同じような仕事をさせているだけでは、
スタッフのスキルもモチベーションも上がらず、辞めていくでしょう。
スタッフの成長・やりがいを創出するためには、権限移譲と機会提供が必要です。
自分の成長スピードに合わせて与えられる新しい仕事をこなすことで、
「自分ならできる。もっと頑張りたい」という自信と意欲が芽生え、
その先にリーダー候補が生まれてくるのです。
もちろん、身勝手な責任転嫁を推奨しているわけではありませんので、ご注意下さい。
3つ目のステップは、 「定着」 。
【定着】 を成功させるためには、以下の3つが必要です。
7.適正な人員計画。成果に繋がる配置 |
7.適正な人員計画。成果に繋がる配置。
実は、適正な人員配置をすることが職場環境を良くするんです。
人が極端に少なかったり、適材適所ではないポジションで働いていると、
スタッフの負担が重くなりますし、逆に人が多すぎたりしても、
仕事中、手持ち無沙汰になってしまうことが多く、
「ここで働くのはつまらない」と思われてしまうことがあります。
8.敬意ある職場。誇りあるチーム。
ベテランスタッフが幅を利かせていて、店長ですら職場に馴染めない・・・
入社日が1日でも早いと、先輩として敬語を強要される・・・
というようなことが起きている職場は、お互いに敬意が払えておらず、
フラットじゃないですよね。
そのような状態では、居心地が悪く、長く働きたいとはなかなか思えません。
9.“Pay for Performance”の公正な評価制度
これは言わずもがなですかね。
スタッフのモチベーションを保つなど、気持ちの部分の話が続いていましたが、
頑張ったことが、きちんと評価されることだって、もちろん重要です。
最後は、 【登用(輩出)】 。
【登用(輩出)】 を成功させるための施策も3つです。
登用は、
採用→育成→定着のステップを着実に構築してきてこそ実現できる最後のステップになります。
10.継続する人材開発 |
10.継続する人材開発
業務スキルを向上させる“育成”の他に、
個人の能力や仕事人としての意識を高めていくための“開発”を行っていくことが求められます。
11.タレントマネジメント。人材の見える化
各従業員の能力や、
業務スキルの高い人材が社内のどこにどれだけいるのか?を把握することを指しています。
これを実現する為には、見える化する仕組みやシステムが必要になってきます。
12.次世代の創出
自社で育てた人材に”正社員”という活躍の場を広げることや身に着けた知識やスキルを活用し、
他社や社会で活躍していただくことを指していまます。
ひいては、これまでの1〜11の取り組みを通じ、
「私、店長みたいになりたい」「私、●●さんのように活躍したい」と各スタッフが
自分のロールモデルを社内に見いだすことができる状態が理想です。
これにより、
従業員満足度が上がる → 自社で登用される確率が上がる → 顧客サービスレベルが上がる → 売上が上がる → 利益がでて、さらに従業員満足度が上がる→・・・ |
という好循環を作り出すことが可能です。サービスプロフィットチェーンとも呼びます。
まとめ
フィールドHRサイクルのご説明の為、
少し文字が多くなってしまいましたが、サイクルの概要は掴んで頂けましたでしょうか?
人材マネジメントにおける、4つの基本ステップ 「採用」「育成」「定着」「登用」。
そして、それを成功させるための12個の施策。
今後の記事では、各施策ごとに詳しく紹介していきます。
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